大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成3年(ワ)168号 判決 1993年5月21日

原告

奥健二

被告

飯田嘉人

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金五三九七万四四一〇円及び内金四九九七万四四一〇円に対しては昭和六三年七月六日から、内金四〇〇万円に対しては平成五年五月二二日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の、その七を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して、金七四三七万二〇八六円及び内金六七三三万八二六〇円に対しては昭和六三年七月六日から、内金六七三万三八二六円に対しては平成五年五月二二日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六三年七月五日午前八時〇五分ころ

(二) 場所 神戸市須磨区横尾八丁目一番先市道上(以下「本件市道」という。)

(三) 被告者 被告神戸トヨペット株式会社(以下「被告会社」という。)保有・被告飯田嘉人(以下「被告飯田」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 原告車 原告乗車の自転車

(五) 態様 被告車が、本件市道上を南方から北方へ進行中、本件事故現場において、その左前方を走行していた原告車に衝突し、原告が路上に転倒し負傷した。

2  被告らの責任

被告らは、それぞれ、次のとおり、原告が本件事故により被つた損害を賠償する責任を負う。

(一) 被告飯田は、本件事故直前、自車前方の注視を怠り、また、制限速度をかなり超過して走行していたため、その前方を走行していた原告車を避けきれずに接触したという過失により本件事故を発生させた。

よつて、同人は、民法七〇九条による責任を負う。

また、同人は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条による責任を負う。

(二) 被告会社は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた。

よつて、右会社は、自賠法三条による責任を負う。

3  原告の本件受傷と治療の経過

(一) 原告の受傷内容

原告は、本件事故により、急性硬膜外出血、多発性脳損傷、左鎖骨骨折、左前頭部・側頭部・頭頂部骨折などの傷害を負つた(以下「本件受傷」という。)。

(二) 治療経過

(1) 医療法人栄昌会吉田病院(以下「吉田病院」という。)昭和六三年七月五日から同年一二月一七日まで入院(一六六日間)

昭和六三年一二月一八日から平成二年五月一九日まで通院(実日数三七日)

(2) 玉津福祉センター・リハビリテーションセンター附属中央病院(以下「玉津福祉センター」という。)

昭和六三年一二月一八日から平成元年三月一八日まで入院(九一日間)

(3) 心身障害福祉センター

平成元年八月から平成二年三月まで通院

(三) 原告は、本件事故直後から意識がなく、危篤状態であつたが、本件事故から四か月目に、奇蹟的に意識が回復した。

(四) 原告の症状は、平成二年五月一九日に固定した。

4  原告の後遺障害など

(一) 本件後遺障害の発生

(1) 原告は、本件受傷による頭部外傷により、脳を損傷した。

原告に対するCT検査によると、脳室系が拡大し、脳が全般的に萎縮し、左前頭葉や側頭葉などに低吸収域がある。

原告には、右疾患に基因し、次のような内容の後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が存在し、これらの障害は、今後、改善の可能性がない。

(イ) 言語能力、記憶力などの低下

原告の言語症状は、麻痺性構音障害のため、発生が小さく、発語速度が低下し、構音に歪みがある。

ただし、失語症状はなく、その会話は、聞き手が話の内容を知つていれば理解できる。

全般的に反応遅廷、精神的な機敏性が低下し、考え方が幼稚で、物事に対処する持久力が低下している。

原告の知能指数は、判定不能であるが、強いて言えば三一以下である。

(ロ) 視力の低下、食べ物の嚥下が若干困難、四肢の運動能力の低下、軽度の四肢不全麻痺による右指屈曲の不十分、歩行がやや不安定。

(2) 原告は、本件後遺障害のため、他人の頻繁な指示がないと労務を遂行することができず、労務遂行の巧緻性や持久力が平均人より著しく劣り、独力では、一般人の四分の一程度の労働能力しかない。

(3) 原告の本件後遺障害は、右内容から自賠法施行令別表の後遺障害等級第五級二号に該当し、自賠責保険においても、その旨認定された。

(二) 原告のその後の進路及び状況

(1) 原告は、本件事故当時、私立滝川高等学校(以下「滝川高校」という。)第一学年に在学中であり、平成元年四月同校に復学し、同年一〇月まで通学した。

しかし、原告の知能は、脳損傷による本件後遺障害のため明らかに低下し、滝川高校側もその処遇に窮し、ついに同人の両親に対し、自ら退学するよう申し入れた。

同人の両親も、やむなく同校の同申し入れに応じ、原告は、同年一一月から同校への通学を取り止め、平成二年二月同校を退学した。

(2) 原告は、滝川高校を退学した後、神戸市兵庫区大開所在神戸市心身障害福祉センターにおいてリハビリを行い、平成二年四月から伊丹市所在兵庫県職業訓練校へ入学し、一年間の過程を修了した。

(3) 原告は、平成三年五月、ダイエー名谷店にパートの従業員として就職し、以後現在まで同店において鮮魚パックの運搬業務に従事している。

もつとも、ダイエーとしては、身体障害者の雇用促進に関する行政指導に従つて原告を雇用したのであり、原告に対し単独で業務を任せることはできず、同人が業務中必ず別に従業員一名を原告に付けている。

原告の右就労状況から、同人には、右会社からその正社員に採用される見込みが全くなく、むしろ、同会社から何時でも解雇される恐れがある。

(4) 原告は、平成三年五月ころ、自宅の近所の家で飼われている犬を連れて、神戸市須磨区内の自宅から徒歩で同市中央区内のJR神戸駅まで出かけ、その際、右の犬を逃がすなどの行動を採つたため、大騒ぎになつた。

原告の父である訴外亡奥忠義(以下「亡父忠義」という。)は、この騒ぎが原因で入院し、その後、同年一一月死亡した。

その後は、原告母訴外奥時子(以下「母時子」という。)が原告の世話を専ら一人でしている。

(5) 原告は、前記のとおり、本件後遺障害として軽度の四肢不全麻痺があるほか、右半身の硬直は、その後も、次第にひどくなつている。

また、原告の話す言葉は、母時子が何度か聞いてようやく理解できる程度のものであり、原告の姉や兄でも理解できず、前記ダイエーの勤務先においても、他の従業員との間でも充分に意思を疎通できていない。

原告が癇癪を起こして物を投げつけるため、同人宅の窓ガラスが割れたり、壁が凹んだりする。母時子は、同人においてこれを修理をしても、原告がまた同じ所業を繰り返えすため、破損したままにしている。

原告の姉や兄は、原告の右所業から、同人とは早く居を別にしたい旨述べている。

5  原告の損害

(一) 入院諸雑費 金三〇万六八〇〇円

(1) 吉田病院入院 金二一万五八〇〇円

入院期間一六六日につき、一日当たり金一三〇〇円の割合による合計金二一万五八〇〇円。

(2) 玉津福祉センター 金九万一〇〇〇円

入院期間九一日につき、一日当たり金一〇〇〇円の割合による合計金九万一〇〇〇円。

(二) 付添看護費 金六五万円

(1) 母時子は、原告が吉田病院に入院した当初から、約一か月間、生命保険会社への勤務を休み、原告に付き添つて看護した。

これによる減収は、金五〇万円である。

(2) 亡父忠義は、原告が吉田病院に入院した当初の七日間休業し、また、その後も月二、三回は休業して、原告に付き添つて看護した。

これによる減収は、金一五万円を下回らない。

(三) 後遺障害による逸失利益 金六二二一万一四六〇円

原告は、本件症状固定時一七歳(昭和四七年一〇月二七日生)の男子であり、前記のとおり、滝川高校第一学年に在学し勉学に励んでいたところ、前記のとおり後遺障害等級第五級二号に該当する本件後遺障害のため、その労働能力の七九パーセントを喪失した。

原告の逸失利益の算定の基礎となる収入は、本件事故が発生した当時の昭和六三年度貸金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の全年齢平均給与額年額金四五五万一〇〇〇円によるべきである。原告は、本件事故前の勉学状況や家庭環境からすれば、四年生の大学に進学し、これを卒業することが可能であつたのであるから、この収入額は、むしろ控え目なものである。

また、原告の就労可能年数は、満一八歳から満六七歳までの四九年間とすべきである。

右各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ライプニツツ式計算方法により中間利息を控除して算定すると、金六二二一万一四六〇円となる。

455万1000(円)×0.79×17.3036≒6221万1460(円)

(四) 慰謝料 金一八〇〇万円

原告は、滝川高校に入学し、勉学に励んでいたところ、そのわずか三か月後に、本件事故による本件受傷のため、死に瀕することになつた。原告は、かろうじて一命を取り止めたものの、本件後遺障害のため、リハビリを繰り返し、今後の就労も危ぶまれる状態にある。

また、原告の両親である亡父忠義、母時子らは、本件事故のために、原告が死亡したのと比肩すべき心労を受け、労苦を強いられた。本件では、亡父忠義、母時子ら固有の慰謝料を特に請求しないが、原告の本件慰謝料を算定する際、同人の家族の右事情も特に同算定の一事情として斟酌すべきである。

よつて、原告の本件慰謝料は、少なくとも、次の額を下回らない。

(1) 入通院による慰謝料 金三〇〇万円

(2) 後遺障害による慰謝料 金一五〇〇万円

(五) 右各損害費目の合計額 金八一一六万八二六〇円

6  損害の填補 金一三八三万円

原告は、本件事故後、自賠責保険から、保険金(後遺障害分)金一三八三万円の支払を受けた。

そこで、右受領金を前記各損害費目の合計額から差し引くと、原告の本件損害額は、金六七三三万八二六〇円となる。

7  弁護士費用 金七〇三万三八二六円

原告は、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起とその遂行を委任し、次の報酬を支払うことを約した。

(一) 着手金 金三〇万円

(二) 成功報酬 金六七三万三八二六円

8  原告の本件損害の合計額 金七四三七万二〇八六円

9  よつて、原告は、被告らに対し、連帯して、本件損害合計金七四三七万二〇八六円及び内金六七三三万八二六〇円に対しては本件事故の日の翌日である昭和六三年七月六日から、内弁護士費用の一部金六七三万三八二六円に対しては本判決言渡の日の翌日である平成五年五月二二日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1(本件事故の発生)の事実は認める。

2  同2(被告らの責任)の事実は認める。

ただし、本件事故の発生につき、原告の過失も寄与していることは、後記抗弁において主張するとおりである。

3  同3(原告の本件受傷と治療の経過)の事実について

(一) 同(一)の事実は認める。

(二) 同(二)(1)、(2)の各事実は認め、(3)の事実は不知。

(三) 同(三)、(四)の各事実は不知。

4  同4(原告の後遺障害など)について

(一) 同(一)(1)の事実中原告に本件後遺障害が存在することは認めるが、その余の事実は全て不知。(2)の事実は否認し、その主張は争う。(3)のうち、本件後遺障害が自賠責保険において自賠法施行令別表の後遺障害等級第五級二号に該当する旨認定された事実は認め、その主張は争う。

(二) 同(二)(1)、(2)の各事実はいずれも不知。(3)のうち、原告が、平成三年五月、ダイエー名谷店にパート従業員として就職し、以後現在まで同店において鮮魚パツクの運搬業務に従事していることは認め、その余の事実は不知。(4)、(5)の各事実は不知。

5  同5(原告の損害)の事実は否認し、その主張は争う。

原告主張の本件損害費目中被告らにおいて特に争い主張するのは、次のとおりである。

(一) 付添看護費について

職業的付添人である家政婦が、昭和六三年七月二一日から、原告を付添看護していたから、同日以降は、仮に、母時子や亡父忠義が原告を看護していたとしても、右家政婦による看護と重複している。

(二) 後遺障害による逸失利益について

後遺障害による逸失利益は、満一八歳の高卒男子の平均賃金を基礎とし、ホフマン式計算方法を用いて算定すべきである。

また、原告の労働能力は、リハビリにより回復するから、同人が六七歳に達するまで一律に七九パーセントを喪失したとして計算すべきではなく、その喪失率を逓減すべきである。

現に、原告は、前記のとおり、ダイエー名谷店に勤務して収入を得ている。

6  同6(損害の填補)の事実は認めるが、その主張は争う。

7  同7(弁護士費用)の事実、8(原告の本件損害の合計額)の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

(一) 本件事故現場の状況

本件市道の構成は、次のとおりである。

南方より北方へ通じる車道(幅員六・七メートル。中央線により南行き北行き各一車線に区分されている直線状の平坦な舗装路。)、同車道に接続して東西に向い順次外側帯(幅員は、東側〇・七メートル、西側〇・六五メートル。)、植樹帯(幅員は、東西側とも一・五メートル。)、歩道(幅員は、東西側とも二・五メートル。)である。

本件市道は、市街地に位置し、その交通量は、普通であり、前後方への見通しは良好である。

また、本件市道における最高速度は、時速四〇キロメートルであり、駐車は禁止されている。

なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。

(二) 本件事故発生の経緯

(1) 被告飯田は、被告車を運転して、本件市道を制限速度内の速度で走行し本件事故現場付近に至つたところ、先行していた原告車が、被告車の左前方八、九メートルの地点で急に右折を開始したために、本件事故が発生した。

しかして、被告ら主張の右事実を裏付ける事情は、次のとおりである。

(イ) 被告飯田は、本件事故直前後記のとおり、被告車のハンドルを右に転把し、急制動措置を講じたが、同人が右動作を採ることは、原告車が、急に右折しなければあり得ないことである。

(ロ) 原告が前記高校への通学方法として、神戸市営地下鉄妙法寺駅(以下「妙法寺駅」という。)へ赴くためには、本件市道を北進して塩屋多井畑線との三叉路(以下「本件三叉路」という。)に至り、同所を右折して、塩屋多井畑線を東進しなければならないが、本件三叉路は、信号機による交通整理が行われている。

そこで、原告は、本件事故現場にある信号のない横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)を右折したうえ、本件市道東側歩道を北進し、本件三叉路で右折して塩屋多井畑線に入ることにより、同三叉路において信号待ちを避けようとしたのである。

(ハ) もつとも、原告が本件市道の手前の西側から左折して本件市道に進入して北進し、本件三叉路に至るまでには、同市道西側歩道から、東側歩道に移動する契機となる交差点が数ヵ所あるが、いずれも横断歩道がなく、本件横断歩道で右折するのが最も自然である。

(2) 原告は、本件事故直前の前記右折に際し、無謀にも、後方を確認しなかつた。

(三) 本件事故の発生には、原告の右重大な過失が寄与しているから、原告の本件損害額の算定に当たつては、同過失を斟酌し少なくとも五割の過失相殺をすべきである。

(四) 被告らは、本件事故後、原告の自認する自賠責保険金金一三八三万円の支払いのほか、原告が本訴において損害費目として主張請求していない次の各金員をも支払つている。

(1) 治療費 金一二三万三六〇八円

(2) 雑費(通院交通費等通院治療関係分) 金一〇八万九三一三円

(3) 看護費(職業付添人分) 金一二八万〇八一〇円

合計 金三六〇万三七三一円

そこで、右支払い金額合計金三六〇万三七三一円を原告の本件損害額に加算して、右過失相殺の対象にすべきである。

2  損害の填補

原告の本件損害の填補関係は、抗弁1(四)において主張したとおりである。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1(過失相殺)について

(一) 同(一)(本件事故が発生した現場の状況)の事実は認める。

(二) 同(二)(本件事故が発生した経緯)について

(1) 同(1)の事実のうち、被告飯田が本件市道上を制限速度内で走行していたこと、原告車が被告車の前方八、九メートルの地点で急に右折を開始したことは、いずれも否認する。

本件事故が発生した午前八時ころに、本件市道を走行する車両の数は非常に少ないから、被告飯田は、制限速度をかなり超過して被告車を走行させていたと推認すべきである。

(イ) (イ)の事実は不知。その主張は争う。

(ロ) (ロ)の前段の事実は認め、後段の事実は否認する。

(ハ) (ハ)の主張は争う。

原告が、本件市道の手前の西側から左折して本件市道に進入した地点の形状及び本件事故の発生した当時、本件市道を通行していた車両が全くなかつたことからすると、もし、原告が、本件三叉路に至るまでに西側歩道から東側歩道に移動するつもりであつたのなら、右進入の際に、そのまま東側まで直進し、東側歩道を北進したはずである。

(2) 同(2)の事実は否認する。

(三) 同(三)の主張は争う。

本件事故は、被告飯田が前方注視義務を怠り、また、制限速度をかなり超過して走行した過失により、その前方を走行していた原告車を避けきれずに接触したために発生したものであり、原告には過失がない。

(四) 同(四)中原告が本件事故後、自賠責保険金金一三八三万円の支払いを受けたこと、原告が被告ら主張の各費目を本訴において損害費目として主張請求していないことは認めるが、同(四)のその余の事実は全て不知。その主張は争う。

2  抗弁2(損害の填補)について

抗弁1(四)の主張に対する答弁と同じである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)及び同2(被告らの責任)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

したがつて、被告らは、原告に対し、連帯して、原告が本件事故により被つた損害を賠償しなければならない。

二  同3(原告の本件受傷と治療の経過)について

1  (一)(原告の受傷内容)について

原告が本件事故により急性硬膜外出血、多発性脳損傷、左鎖骨骨折、左前頭部・側頭部・頭頂部骨折などの重傷を負つた事実(本件受傷)は、当事者間に争いがない。

2  (二)(治療経過)について

(一)  原告が、次のとおり、入通院した事実は、当事者間に争いがない。

(1) 吉田病院

昭和六三年七月五日から同年一二月一七日まで入院(一六六日間)

昭和六三年一二月一八日から平成二年五月一九日まで通院(実日数三七日)

(2) 玉津福祉センター

昭和六三年一二月一八日から平成元年三月一八日まで入院(九一日間)

(二)  原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、原告法定代理人親権者母奥時子(尋問当時。以下「奥時子」という。)本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 原告は、本件事故の直後から意識がなく、危篤の状態が続いたが、本件事故から四か月目に、奇蹟的に意識を回復した。

(2) 原告は、心身障害福祉センターに平成元年八月から平成二年三月まで通院した。

(3) 原告の症状は、平成二年五月一九日に固定した。

三  同4(原告の後遺障害など)について

1  (一)(本件後遺障害の発生)について

(一)  原告が本件後遺障害について自賠責保険において自賠法施行令別表の後遺障害等級第五級二号に該当する旨の認定を受けたことは、当事者間に争いがない。

(二)  そして、前掲甲第二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、成立に争いのない甲第九号証、奥時子本人、原告本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 原告は、本件受傷である頭部外傷により、脳を損傷したところ、同人に対するCT検査によると、同人の脳室系が拡大し、脳が全般的に萎縮し、左前頭葉や側頭葉などに低吸収域がある。

原告には、右疾患に基因して、次の内容の本件後遺障害が存在し、これらの障害は、今後改善の可能性がない。

(イ) 言語能力、記憶力などの低下

原告の言語症状は、麻痺性構音障害のため、発声が小さく、発語速度が低下し、構音に歪みがある。

ただし、失語症状はなく、その会話は、聞き手が話の内容を知つていれば理解できる。

全般的に反応遅延、精神的な機敏性が低下し、考え方が幼稚で、物事に対処する持久力が低下している。

原告の知能指数は、判定不能であるが、強いて言えば三一以下である。

(ロ) 視力の低下、食べ物の嚥下が若干困難、四肢の運動能力の低下、軽度の四肢不全麻痺による右指屈曲の不十分、歩行がやや不安定。

(2) 原告は、本件後遺障害のため、他人の頻繁な指示がないと労務を遂行することができず、労務遂行の巧緻性や持久力が平均人より著しく劣つている。

(三)  右認定各事実を総合すると、原告の本件後遺障害は、自賠法施行令別表の後遺障害等級第五級二号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当すると認めるのが相当である。

四  同5(原告の損害)について

1  入院雑費 金二九万〇二〇〇円

原告の本件入院及びその期間は、当事者間に争いがない。

よつて、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下「本件損害」という。)としての右入院雑費は、次のとおりと認めるのが相当である。

(一)  吉田病院入院 金一九万九二〇〇円

入院期間一六六日につき、一日当たり金一二〇〇円の割合による合計金一九万九二〇〇円。

1200(円)×166=19万9200(円)

(二)  玉津福祉センター 金九万一〇〇〇円

入院期間九一日につき、一日当たり金一〇〇〇円(ただし、原告自身の主張にしたがう。)の割合による合計金九万一〇〇〇円。

1000(円)×91=9万1000(円)

(三)  入院雑費の合計額 金二九万〇二〇〇円

19万9200(円)+9万1000(円)=29万0200(円)

2  付添看護費 金一六万円

(一)  原告の本件受傷の内容は、当事者間に争いがなく、同人が本件事故直後より意識がなく、危篤の状態が続いたが、本件事故から四か月目に奇蹟的に意識を回復したことは、前記認定のとおりである。

(二)  成立に争いのない甲第一三号証、奥時子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証、奥時子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(1) 原告は、亡父忠義、母時子間の二男であり、本件事故当時、後記認定のとおり一六歳で、滝川高校第一学年に在学していた。

(2) 母時子は、原告が吉田病院に入院した当初から二五日間、当時在籍した生命保険会社を欠勤して、原告に付き添つて看護した。

(3) 亡父忠義は、原告が吉田病院に入院した当初の七日間、また、その後も月二回ほど、当時在籍した証券株式会社を欠勤して、原告に付き添つて看護した。

(三)(1)  当事者間に争いのない前記各事実及び右認定各事実を総合して認められる、原告の本件受傷の部位・程度、その治療経過、同人のその間における容態、同人の家族の中で占める位置、同人の年令等に基づくと、仮に職業付添人(家政婦)との付添看護人と重複する部分があつたとしても、なお母時子については、二五日間の付添看護につき、亡父忠義については、七日間の付添看護につき、それに要した費用を本件損害と認めるのが相当である。

なお、亡父忠義の本件付添看護期間を右認定期間とするのは、残余の分については、特定が十分でないし、母時子との付添看護との関係も明確でないからである。

(2)  しかして、右両名の本件付添看護費の金額は、一日当たり金五〇〇〇円の割合とし、合計金一六万円とするのが相当である。

5000(円)×(25+7)=16万0000(円)

3  後遺障害による逸失利益 金五九二四万八五八二円

(一)  原告の本件後遺障害が自賠法施行令別表の後遺障害等級表第五級二号に該当することは、前記判示のとおりである。

(二)(1)  前掲甲第一三号証、奥時子本人、原告本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 原告は、本件事故当時、一六歳(昭和四七年一〇月二七日生)で滝川高校第一学年に在学中であり、平成元年四月に同校に復学し、同年一〇月まで通学した。

しかし、原告は、本件後遺障害のために、その知能が明らかに低下し、授業内容を理解できず、授業中はほとんど寝ているだけで、持参した昼食もほとんど食べず、テストの答案も作成できず、ただ学校に行つているだけという状態であつた。

そのうち、原告が他の生徒からいじめられるようなこともあつたため、滝川高校側も同人の処遇に窮し、ついに原告の両親に対し、自ら退学するよう申し入れた。

原告の両親も、やむなく同校の右申し入れに応じ、原告は、同年一一月から通学を取り止め、平成二年二月同校を退学した。

(ロ) 原告は、滝川高校を退学した後、神戸市兵庫区大開所在神戸市心身障害福祉センターでリハビリを行い、平成二年四月から伊丹市所在兵庫県職業訓練校に入学し、一年間の過程を修了した。

(ハ) 亡父忠義は、原告が右兵庫県職業訓練所を卒業した後同人の就業場所を確保しようと努力し、毎日のように職業安定所に通つて、原告を雇用してくれる企業を探した。

この結果、原告は、ようやく、平成三年五月、ダイエー名谷店にパート従業員として就職することができ、その後現在まで同店パート従業員として勤務している。

(ニ) 原告の右名谷店における勤務時間は、午前八時から四時半までの約七時間であり、水曜日と木曜日を除いて、毎日出勤し、一か月当たり約二〇日、稼働する。

また、その賃金は、一時間当たり金六一〇円であり、一か月の給与は、交通費を除くと、約八万五〇〇〇円を支給されている。

(ホ) 原告の業務は、鮮魚パックを台車に乗せて、倉庫から売り場まで運搬する内容であり、台車には一回当たり四箱を乗せて運ぶことになつている。

原告は、右鮮魚パックを、その種類ごとに、売り場の所定場所に置くように指示されているが、本件後遺障害による記憶力低下のため、鮮魚の種類を覚えることができず、売り場に置いてあるパック鮮魚の形を見て、それと同じ鮮魚パックを置くようにしている。

(ヘ) ダイエー名谷店では、原告に対し単独で業務を任せられる状態ではないため、原告の稼働中別に従業員を配置して、原告を援助しているが、原告は、右付添従業員は勿論、他の従業員らに対しても十分に意思を疎通できない。

右名谷店の従業員の中には、原告に対し、不快感を示す者もあり、原告を取り囲む職場雰囲気は、同人にとつて快適という訳ではない。

原告の右就労状況から、同人には、ダイエー正社員に採用される見込みが全くなく、むしろ、同会社から何時でも解雇される恐れがある。

(ト) なお、原告の右就労状況以外に、同人の日常生活状況を付加すると、次のとおりである。

(a) 原告には、本件後遺障害による軽度の四肢不全麻痺があるが、同人の体右半分の硬直は、本件症状固定後も、次第に激化し現在ではその右半身がほとんど毎日のように硬直する。

同人は、その右手が硬直するために、左手で箸を持つたり、字を書く練習をしているが、左手の握力が充分でないこともあり、未だ、習熟の域に達していない。

原告は、真つ直ぐに歩くことが困難である。

原告の話す言葉はやや不明瞭で、その話を聞き慣れた母時子が何度か聞いてようやく理解できたということもある。

原告は、食事に時間がかかり、三〇分ないし四五分を要する。

(b) 原告は、癇癪を起こして物を投げつけることがあるため、原告宅の窓ガラスが割れたり、壁が凹んだりする。

母時子は、同人においてこれを修理をしても、原告がまた同じ所業を繰り返えすため、破損したままにしている。

(2)  右認定各事実を総合すると

(イ) 原告は、本件後遺障害により実損、すなわち経済的損失を被つていると認められるから、同人には、本件損害としての、本件後遺障害による逸失利益の存在を肯認すべきである。

(ロ) 原告は、本件後遺障害によりその労働能力を喪失していると認められるところ、その喪失率は、右認定各事実を主とし、これにいわゆる労働能力喪失率表を参酌し、七九パーセントと認めるのが相当である。

(3)  しかして、同人の本件逸失利益算定の基礎収入は、昭和六三年度(原告は、当時一六歳)賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規構計・学歴計・男子労働者の全年齢平均給与額年額金四五五万一〇〇〇円(ただし、原告自身の主張にしたがう。)と推認するのが相当である。

(4)  原告の就労可能年数は、満一八歳から満六七歳までの四九年間と認めるのが相当である。

(三)  右認定説示を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ライプニツツ式計算方法により中間利息を控除して算定すると、金五九二四万八五八二円となる〔ライプニツツ係数は一六・四七九五(一八・三三八九-一・八五九四)。円未満四捨五入。以下同じ。〕。

455万1000(円)×0.79×16.4795≒5924万8582(円)

(四)  被告らは、原告の労働能力はリハビリにより回復するからその喪失率を逓減すべきである旨主張している。

しかしながら、原告の労働能力喪失率については前記認定のとおりであり、右認定各事実と前記認定にかかる同人が本件症状固定時同人の本件後遺障害は今後改善される可能性がないと診断されていることを合わせ考えると、同人の労働能力喪失率を同人が六七歳に達するまでの間とする前記認定説示を正当として是認すべきである。

加えて、被告の右主張には、これを肯認させる具体的事実の主張・立証がない。

確かに、原告が現在ダイエー名谷店に勤務して収入を得ていることは前記認定のとおりである。

しかしながら、同人に対する雇用の実態が障害者福祉を目的としたものであり、同人に対して支給させる給与も、健常者の労働の対価というよりも、むしろ福祉的要素の強いものであることは、前記認定各事実から認められるのであり、したがつて、同人が現実に右収入を得ているからといつて、この一事をもつて被告らの右主張の根拠とすることはできない。

よつて、被告らの右主張は、いずれにせよ理由がなく採用できない。

4  慰謝料 金一六〇〇万円

原告の本件受傷、その治療経過、本件後遺障害の内容及びその程度、同人のその後における就労状況のほか、本件に現われた一切の諸事情を総合すれば、本件事故による慰謝料は、金一六〇〇万円とするのが相当である。

5  原告の本件損害の合計額 金七五六九万八七八二円

五  過失相殺

1  抗弁事実中本件事故現場の状況、先行する原告車に被告車が本件事故現場において衝突し本件事故が発生したこと、原告が滝川高校への通学方法として妙法寺駅へ赴くためには、本件市道を北進して本件三叉路に至り、同所を右折して、塩屋多井畑線を東進しなければならないが、同三叉路は信号機による交通整理が行われていることは、当事者間に争いがない。

2(一)  原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、被告飯田本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場(本件衝突場所。以下同じ。)は、本件市道北行き車線(幅員三・四メートル)上で、中央線より約二・二六メートル西寄り、同車線西端(前記外側帯の内側線)から約一・一四メートル東(中央)寄りの地点であること、同事故現場の直近北側に信号機のない横断歩道(本件横断歩道)が存在すること、同事故現場付近には、同事故当時、原告車及び被告車の前後に走行車両がなかつたこと、駐車車両も、同事故現場付近に存在しなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  ところで、被告らにおいて、本件事故は、被告車が同事故現場付近に至つた際、同車両に先行する原告車が被告車の左前方約八、九メートルの地点で急に右折を開始したため発生した旨主張する。

(1) しかして、被告らの右主張事実にそう証拠として、前掲乙第二号証の記載内容及び被告飯田本人尋問の結果の各一部があるが、同文書の同記載部分及び被告飯田の右供述部分は、後掲各証拠及びそれに基づく後記認定事実に照らして、にわかに信用することができず、他に右主張事実を肯認するに足りる的確な証拠はない。

被告らは、同人らの右主張事実を裏付ける事情をるる主張しているが、同主張の事情を認めるに足りる的確な証拠はない。

ただ、前掲乙第二号証には、本件事故現場から原告車のスリツプ痕が北東に向け左二五メートル、右一三・六メートル(左右は、原告車の運転席に着席して正面を向いた姿勢を基準とする。以下同じ。)の長さで残されていることが認められる。

しかしながら、右スリツプ痕の方向のみから直ちに被告らの前記主張を肯認することはできない。

蓋し、右スリツプ痕の方向は、原告車の後記認定にかかる走行姿勢と必ずしも矛盾するものではないからである。

(2)(イ) かえつて、前掲乙第二号証、成立に争いのない甲第七号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、撮影対象及び撮影者に争いがなく、弁論の全趣旨により平成四年一月二六日ころ撮影されたものと認められる検甲第一号証の一ないし五、第二号証の一、第三号証の一ないし六、撮影対象及び撮影者に争いがなく、弁論の全趣旨により平成四年一月二七日ころ撮影されたものと認められる検甲第二号証の二ないし一六、撮影対象及び撮影者に争いがなく、弁論の全趣旨により平成四年六月一五日ころ撮影されたものと認められる検甲第四号証の一ないし一一、奥時子本人、原告本人、被告飯田本人の各尋問の結果(ただし、被告飯田の供述は、信用する部分のみ。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。

(a) 本件市道は、南方から北方に向かう下り坂であり、ゆるやかに左側に曲がつている。

そして、本件横断歩道の南側から、本件三叉路にある横断歩道の北側までの間は、概ね四度程度の下り勾配となつている。

(b) 原告は、滝川高校に通学するため、通常、自転車で、本件市道を北進して塩屋多井畑線との本件三叉路に至り、そこを右折して、塩屋多井畑線を東進し、神戸市営地下鉄妙法寺駅(妙法寺駅)に向かつていた。

本件三叉路は、信号機による交通整理が行われている。

原告は、本件事故直前、横尾第四団地七四号棟と同七七号棟との間の道路を東進して、本件横断歩道のある交差点より、一つ南側の交差点(以下「手前の交差点」いう。)から、左折して北進しながら、本件市道に進入した。

しかして、手前の交差点付近は、見通しも良く、交通量も少なかつた。

(c) 被告飯田は、本件事故直前、被告車の前方約五〇・一メートルの地点付近に、原告車が手前の交差点から本件市道に進入し、一旦、同道路中央付近まで寄つたのを認めた。

原告車は、その後、本件市道北行き車線の西側を北進し、本件市道東側歩道に移動するような動作を見せなかつた。

(d) ところが、被告車が本件事故現場の南方約一一・三メートルの地点付近に至つた時、被告飯田は、原告が本件横断歩道の直前において後方をふりかえることも、原告車の速度を落すこともなく、突然原告車の走路を前記走行していた本件市道北行き車線の西側から前記本件事故現場付近に変更したのを認め、衝突の危険を感じ直ちに自車のハンドルを右に切り急制動を講じたが間に合わず、被告車の左前部が原告車の右側面に衝突し、原告は、同事故現場から約一六メートル北方に転倒し、同事故が発生した。

(ロ)(a) 右認定各事実に照らしても、被告らの前記主張は、これを肯認し難い。

蓋し、右認定各事実を総合すると、要するに

(Ⅰ) 本件市道は、前記のとおり、北に向かつて緩やかに曲がつた下り坂であるから、自転車に乗つた原告は、下り坂で加速しながら進行していたと推定される。

それ故、仮に、原告が本件横断歩道まで真つ直ぐに進行したうえで同所で右折しようとするならば、本件横断歩道の手前で、一旦停止に近い状態まで速度を落とすのが自然な運転方法と考えられるが、原告がそのような行動を採らなかつたことは、前記認定のとおりである。

(Ⅱ) また、原告が本件市道を北進して本件三叉路に至るまでの間のいずれかで本件市道東側に移動するつもりであつたのならば、本件横断歩道よりも南方にある手前の交差点は、前記のとおり、かなり見通しがよく、しかも交通量が少なかつたのであるから、原告としては、たとえ、そこに横断歩道がなくても、原告が本件市道に進入した手前の交差点付近において、直ちに本件市道を横断する方がむしろ自然であると考えられるからである。

(b) むしろ、右認定各事実及び右説示を総合すると、原告車の本件事故直前における走路変更は、原告が前記下り坂の本件市道を加速しながら走行するに当たり、原告車のハンドル操作に不十分なところがあつたため、あるいは、原告において当時偶々原告車の進路を本件市道の中央寄りに変えようとする運転方法を採つたため、発生したと推認するのが相当である。

(c) 結局、被告らの前記主張は、理由がなく採用できない。

3(一)  被告らの前記主張が肯認され得ないとしても、前記認定各事実を総合すると、本件事故発生には、原告における原告車のハンドル操作の誤り、あるいは同人における原告車の後方の安全を十分確認しないまま進路変更をした過失も寄与しているといわざるを得ない。

よつて、原告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当たり斟酌するのが相当であり、被告らの抗弁1は、その限りで理由がある。

(二)  しかして、前記認定にかかる本件事実関係、特に原告車の被告車の本件衝突状況、本件事故現場が本件横断歩道の直前であること、原告の過失内容等に基づけば右斟酌する原告の過失割合は、全体に対し一割五分と認めるのが相当である。

4  ところで、被告らは、同人らにおいて本件事故後原告に対し支払つた本訴損害費目以外の損害費目も同人の本件損害に加算して過失相殺すべきである旨主張している。

(一)  被告らの右主張事実中原告が被告ら主張の各費目を本訴において損害費目として主張請求していないことは、当事者間に争いがない。

(二)(1)  しかして、交通事故の被害者が同事故後加害者からその損害に関し填補を受け、当該費目がその後の訴訟において損害費目として主張請求されていなくても、紛争の一回的解決の観点から、既払の当該費目をも同訴訟における被害者の損害額に加え、これを被害者の総損害として過失相殺の対象とするのが相当である。

(2)(イ)  成立に争いのない乙第三号証の一ないし二八、第四号証の一、二、三の1ないし5、四の1、2、五、第五号証の一の1、2、二ないし一五、第六号証の一ないし二三、第七号証の一ないし五一及び弁論の全趣旨を総合すると、被告らは、本件事故後、原告の本件損害に関し、次の各支払いをしたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(a) 治療費 金一二二万六九一〇円

なお、右乙第四号証の三の四によれば、昭和六三年一一月一日から同月三〇日までの治療費は、金四万〇五一四円ではなく金四万〇五一六円とするのが正しく、また、平成元年一二月二一日付け、平成二年五月一九日付けの診療費兼領収書である右乙第七号証の三〇、四六によれば、右各書面に原告の自己負担分として記載されている金一五五〇円及び金五一五〇円は、文書料として、原告が負担したものと認められ、右認定各事実に照らすと、被告ら主張の治療費は、金一二二万六九一〇円となる

(b) 雑費(通院交通費等通院治療関係分) 金一〇八万九三一三円

(c) 看護費(職業付添人分) 金一二八万〇八一〇円

合計 金三五九万七〇三三円

(ロ) そこで、前記見地にしたがい、右認定の合計金三五九万七〇三三円を前記認定にかかる原告の本件損害金七五六九万八七八二円に加え総計金七九二九万五八一五円を本件損害の総額とし、右総額金七九二九万五八一五円を前記認定の原告の本件過失割合一割五分をもつていわゆる過失相殺するのが相当である。

しかして、原告の右過失相殺後における本件損害額は、金六七四〇万一四四三円となる。

六  損害の填補

1  原告が本件事故後自賠責保険金(後遺障害分)金一三八三万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがなく、同人が同事故後治療費等前記認定の合計金三五九万七〇三三円の支払いを受けたことは、前記認定のとおりである。

2  そこで、右支払い金総計金一七四二万七〇三三円を、本件損害の填補として、前記認定にかかる原告の本件損害金六七四〇万一四四三円から控除すると、その後において、原告が被告らに請求し得る本件損害は、金四九九七万四四一〇円となる。

七  弁護士費用 金四〇〇万円

本件事案の難易度、本件訴訟の審理経過及び前記認容額等によれば、本件損害としての弁護士費用は、金四〇〇万円と認めるのが相当である。

八  原告の本件損害の合計額 金五三九七万四四一〇円

九  結論

1  以上の次第で、原告は、被告らに対し、連帯して、本件損害合計金五三九七万四四一〇円及び弁護士費用を除いた内金四九九七万四四一〇円に対しては本件事故の日の翌日であることが当事者間に争いのない昭和六三年七月六日から、弁護士費用である内金四〇〇万円に対しては本判決言渡の日の翌日であることが本件記録から明らかな平成五年五月二二日から(いずれも、原告自身の主張に基づく。)、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。

2  よつて、原告の本訴各請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲でこれらを認容し、その余は理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助 安浪亮介 亀井宏寿)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例